BSでやっている、昔のテレビ番組を語る番組「週刊お宝TV」で、
天下御免という昭和46年のNHKの時代劇をとりあげていました。(20061103)
脚本が、早坂暁で、
音楽が山本直純、タイトル絵が黒鉄ヒロシ。
私はこの番組を観ていました。
中身はほとんど覚えていないのですが、
非常に型破りで斬新なスタイルだったことは、
子供の私にも理解できて、面白がって観ていました。
映像が第1話と最終回しか残っていない。
それも、主人公平賀源内を演じた山口崇が私的に
テレビ画面をビデオカメラで撮ったものだという。
しかも、最終回の最後の10分間が失われている。
( 山口崇が素材をNHKに提供したのに、
NHKが最後の10分間をなんらかのミスで消したとのこと! )
映像が失われた最終回(1972年(昭和47年)9月29日放送)の最後がどういうものであったか、
早坂暁に取材して、説明してました。
私はこのラストを朧げながら覚えています。
とても強烈な印象を私に残したのです。
ストーリーとしては、
時代とかけ離れて型破りな主人公は、
江戸に居場所がなくなってしまう、せつない終わりを迎えるのですが、
一番最後に、源内たちは気球に乗り、日本を脱出しようとするのです。
そして、彼らがフランスに居たことを示唆して物語は終わります。
ドラクロアの民衆を導く自由の女神を模したカットで、
平賀源内がシルクハットを被り銃を抱えて自由のために闘う。
日本では駄目だったけど、
もっと大きな舞台で活躍しているという希望を見せたのです。
( シナリオでは、水前寺清子のナレーションは、
「源内さんたちによく似た人物を見たという」となっていて、
その伝聞調も子供心に胸にきた微かな記憶
早坂氏のシナリオには、
ドラクロワ云々のような指定や描写はなく、
代わりに
「『ラ・マルセイエーズ』が鳴りわたる。」となっていますが、
劇伴の有無やそのメロディは、子どもの私には判別できなかっただろう。 )
( 「ドラクロアの民衆を導く自由の女神を模した」と
認識し、記憶しているのも、少し不思議なことで、
小学校低学年の私はこの時、すでに
ドラクロワの絵を見知っていたのだろうか、
ドラマの場面を先に知ったのだろうか。
ドラクロワの絵が映り、
シルクハットの男が源内になったカットに変化したという
微かな記憶があるのだが、
詳細なカット割りなどは覚えていないので、わからない。
おそらく、このシーンでこの絵画の存在を覚えたのだろう。
それだけ、強く印象に残ったということなのだろう。 )
と、いう私の記憶を記録したいというのが、このエントリーの作成動機です。
放送当時、私は小学校低学年で、
しかも、当時のテレビドラマですから、
1度しか観ていないのに、
自分の才能が世の中で活きない主人公の無念、
しかし、舞台を変え、
生き生きと活躍しているのかもしれないという救い、
などのメッセージを感じとったことと、
そこで見た画がどんなだったか、覚えている。
類まれな作品とそれに出会えることの素晴らしさ。
( 浦沢直樹が、4歳のとき、
手塚治虫の「地上最大のロボット」を読んで、
勧善懲悪のむなしさを感じ取ったことを
覚えていると言っていた。
「なんて切ない話なんだろうって、
4歳ぐらいのときにね、
4年ぐらいしか生きていないんですけどね、
いわゆる、勧善懲悪でいいものが悪いものをやっつけて、
ドカンっていうものではなく、
それって虚しいよねっていうメッセージが分かったんだね、あのとき」
20230217放送 浦沢直樹の漫勉neo 手塚治虫スペシャル )
20130323追記
NHKアーカイブスのページで一部観ることができます。
http://cgi2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010167_00000
(ニコニコにアップされている最終回の一部)
・殺そうとしているのは、このわしではなく、自由なんだよ。
・ねえ、どうしていい暮らしをしちゃいけないの。
・百姓、町人、漁師のいない国がはたして日本でしょうか。それが国でしょうか。
20200523追記
早坂暁の本、「天下御免」第3巻で、最終回の「さよならだけが人生さ」を読むと、とても面白く、ドラマをもう一度観てみたい思いが強まります。
特に、右京之介(林隆三)が、
「オレのうぬぼれを斬ったのよ」と呟くところなど。
20230318追記
川口のNHKアーカイブス へ出かけ、
最終回を観た。
期待を超え、滅茶苦茶面白かった。
画質の悪さに関係なく見応えがあった。
興味深いのは、
もともと私の記憶に残っているのは、
映像が失われている最後のシーンだけで、
それまでの部分は全然に記憶になく、
初見みたいなものなのだが、
今の目で見ても、
相当に魅力的なドラマで、
平成令和には見られなくなった真っすぐな主人公、平賀源内(山口崇)、
可憐なヒロイン紅(中野 良子)、
頼もしくかっこいい右京之介(林隆三)、
軽妙だが腕がたつ稲葉小僧(津坂匡章・秋野 太作)、
RPGのパーティのようなよく出来たチームです。
特に、稲葉小僧が軽妙でテンポのいいドラマの雰囲気を作っていると思いました。
再確認できたことは、
途中の物語内容は、
放送当時の小学生低学年の私には、
理解できなかっただろうということ、
それでも、
ラストシーンの主張を強烈に感じ取り、
いつまでも覚えているという、
俳優さんの演技など作品が放った力に感嘆すること、
ただ、
その映像は失われて、ふたたび観ることがかなわないこと。
( 昔のテレビ番組を語る番組「週刊お宝TV」を
たまたま観ることがなかったら、
いつか、忘れてしまっていたかもしれないこと )
奇しくも、2023年は、マンガ大奥がドラマ化され、
平賀源内を鈴木杏が演じるようですが、
あらためて、
明るく、真っすぐで、悲劇的な死を迎えることがなかった
本作の平賀源内が振り返られることがあっても
いいなと思いました。
三谷幸喜に頼んだら、熱く解説してくれるかも・笑
テレビドラマグラフィティ53
— 早坂暁公式【早坂暁のことば】 (@hayasakaBot) September 3, 2022
(#三谷幸喜 氏が、#天下御免 や #天下堂々 を見て脚本家を目指したという話について)
三谷くんが、いつもそう話してくれるのは大変嬉しいです。たしか、#天下堂々 の脚本を貰って、この世に脚本家という仕事があることを知ったと聞きました。#NHK #ドラマ #脚本 #早坂暁 pic.twitter.com/1Km3l3j68o
「#天下御免」をずっとご覧頂き、ありがとうございました。最終回から今年でちょうど50年です。
— 早坂暁のことば(公式ツイッター) (@hayasakaBot) June 9, 2022
残念ながらNHKにある最終回の映像は、一部欠損しています。
音声だけですが、最終回を含めたかなりの数を、NHKに渡しています。ただ、それは勝手に公開できないので、シナリオをご紹介致します。 https://t.co/uYJbUQxZFM pic.twitter.com/W65nvAirqN
「天下御免」の映像は、初回が全て残っており、最終回は後半が欠けています。
— 早坂暁のことば(公式ツイッター) (@hayasakaBot) August 20, 2022
私方が所持していたのは音声だけ。映像はありませんが、かなりの話数で、早坂が存命中にNHKアーカイブスさんにお渡ししました。音声は大変綺麗に残っており、音声だけでも凄く面白いのですが、公開されません。 https://t.co/vHVe1e3QPb
津山登志子さん(1954.1.25-2023.3.12)のご冥福をお祈りいたします💐
— MiE (@gomen_maru) March 16, 2023
NHK時代劇 #天下御免(1971-72、脚本 早坂暁)では、絵師 北々斎の孫 桜の役でした✨画像はグラフNHK、レコードより#津山登志子 #太地喜和子 #仲谷昇(田沼意次) #谷啓 #三遊亭円生 #山田隆夫 #林隆三 #津坂匡章 #山口崇(平賀源内) pic.twitter.com/UObbZaUNrU
音声を提供したときは、てっきり公開して皆さんに聴いて頂けると思いました。#アーカイブス さんは「こちらは発掘することが仕事で、それ以上はわかりません」とおっしゃり、公開されない理由は私どもにも判らないのです。何のために提供したのか・・・😞#天下御免 #NHKドラマ #山口崇 https://t.co/PsenqYos1E pic.twitter.com/aA3Qn4OWEJ
— 早坂暁公式X【 早坂暁のことば 】 (@hayasakaBot) July 19, 2024
・大河ドラマ「べらぼう」第16回の平賀源内 20250420追記
俺、信じねえことにします。
源内先生が、死んだって。
「ここはもう死んだことにしてトンズラしましょう
〜
誰も分かりゃしませんよ」
んなことだって、
「ねえ」とは言い切れねえっすよね。
俺はな、平賀源内を生き延びさせるぜ。
この須原屋が源内先生の本を出し続けることでさ、
ず〜っと、ず〜っと
ああ、それこそ、俺が死んでも、
源内さんの心を生かし続けることができるだろ?
伝えていかなきゃな。
どこにも収まらねえ男がいたっていうことをよ。
ヤスケンの源内先生…もう少し長く見ていたかったなぁ…
— ujの残骸または廃墟🏚️ (@ujuzic) April 20, 2025
NHKさん、早坂暁さんの「天下御免」を、ヤスケンさんの源内先生でリメイクしませんか??なぜか映像が全く残っていないあのドラマ…脚本だけはのこってるので、今やる価値のある名作だと思うのです…#大河べらぼう #天下御免 pic.twitter.com/DGDYZbPUso
・山口崇さんが、2025年4月18日お亡くなりになりました。
お悔やみ申し上げます。
自分が大好きだった、もう一人の平賀源内の山口崇さんが亡くなられたとの事。ご冥福をお祈りします。
— 通りすがりの人 (@chihayafurukami) April 21, 2025
「#べらぼう」観ながら、「天下御免」の源内さんは気球で紅さんと海外へ行ったんだよなぁ、と思い出していた。
吉宗や柳生十兵衛も印象的。#天下御免 #大岡越前 #柳生十兵衛#山口崇 #平賀源内 pic.twitter.com/kZjAIAB2eo
ご病気になられてから、天下御免の本をいつも手元に置いて読んでらっしゃったと、ご遺族から伺いました。
— 早坂暁【公式】(早坂暁のことば ) (@hayasakaBot) April 21, 2025
本当に本当にありがとうございました。
合掌
俳優の山口崇さん死去 88歳 肺がん
「天下御免」平賀源内役 「タイムショック」2代目司会https://t.co/vZe3A11UcM
お棺に天下御免の本を収めて下さり、出棺の音楽は天下御免の船出の歌。供花の場所も・・・。
— 早坂暁【公式】(早坂暁のことば ) (@hayasakaBot) April 26, 2025
こんなにありがたいことはありません。
改めてご冥福と大きな感謝を。
山口崇さん告別式
長男の杵屋巳三郎「感謝の念でいっぱいでございます」(スポーツ報知)#Yahooニュースhttps://t.co/VYNdTS4UXJ
・私も「船出の歌」で送られたい。
夢千代日記の感想
http://inatt.seesaa.net/article/398821794.html
天下御免〈3〉 (早坂暁コレクション)
早坂 暁



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おまけ
子どもの頃、
義経=成吉思汗説に胸おどらせた時期があったことを思い出した。
この作品のラストに感動したことと、
共通するところがあるのかも。
さらにおまけ
子供の頃、好きになったドラマ類を見渡すと、
ちょっとふざけたような見せ方をしているスタイルのものを
印象深く覚えています。
それらは、この「天下御免」のほか、
実相寺昭雄×佐々木守のウルトラマン34話「空の贈り物」等
http://inatt.seesaa.net/article/398821761.html
大林宣彦監督の「HOUSE ハウス」
http://inatt.seesaa.net/article/398821810.html
ピーマン白書
などです。
コメントありがとうございます。
放送当時、私は小学校低学年で、
1度しか観ていないのに、
覚えていることがある。
優れた作品の持つ力なんでしょうね。
その自分の記憶を言葉に残したものが、
少しお役に立てたのなら、
嬉しいです。
20151117
今日、TV朝日の「Qさま!!」で「民衆を導く自由の女神」が問題になり、シルクハットの男がドラクロワかもしれない、と言っていたのを見て「天下御免」の最終回を思い出しました。
このラスト、私もしっかり覚えています。当時(9歳か10歳でした)本気で「シルクハットの男は平賀源内なのか」、と感嘆したものです(笑)。
ググってみたのですが、この話はこちらのブログにしか載っていないようですね。NHKが映像残していないので、忘れ去られてしまうのか、と思うと、ちょっと寂しいです。