2020年03月29日

【ドラマ】 スカーレット 2019年



大事なものを失ったのだと、思いました






【「不穏」な朝ドラ】

2019年下期の朝ドラ

今まで、いくつもの朝ドラを観てきましたが、
それまでのどれとも違う味わいを感じました。

台詞、演技、演出、劇伴(特にチェロ?ヴィオラ?の音色)が、
それぞれ過剰でなく、余白がありながらも、心が揺さぶられ、

観ていると、知らずにじんわりと涙ぐんでいるような、

時には体全体が揺さぶられたかのように感動してしまったシーンも

・八郎のフカ先生への告白
・信楽太郎の「さいなら」

また、
話の展開にドキドキ・ワクワクするというよりは、
ちょっとした会話や仕草に
よくわからない不穏を感じることがありました。

土の響き - 冬野ユミ
[iTunes]土の響き - 冬野ユミ



主人公が陶芸家になることは、
この物語のゴールではありませんでした。


このドラマの作り手たちが、
一番示したかったことは何か、
最終回を観終わってなお、
つらつら考え続けています。

女性を表現する言葉で「男勝り」という言い方がありますが、
そういうことじゃなく、
強く生きていく「人間」を描きたかったのかな、
と思っています。

たとえば、
自分の気持ちを自覚したうえで、
自らの意思により、
信楽を去っていく三津。

この物語の登場人物は皆、特に女性は強いですよね。
 
男連中は、それよりは...・笑

性別にかかわらず、
運命に耐えかね、曲がってしまうような人が一切登場しない物語でした。


そのなかで、
主人公の喜美子は、
長女として家のことをやってきたし、
加えて、大久保さんに仕込まれて、
賄いや暮らしのやりくりも完璧で、

よくあるような、
仕事はできるけど、家事はダメとか、
仕事に夢中で、子育ては放任主義だったとか、

そんなことはなく、
物語の登場人物として、
生きていくための手わざと
芸術を作り出す技術やひらめきを併せ持つ
弱点のない人です。

( あえて言うと、
  息子の彼女に気が利かないとか、
  それくらい・笑 )

そんな人がたどりついた、

自らの選択により、
また、
抗えない運命により、

大事なものを手放し、失いながらも
ひとりきりで窯に向かう暮らし。


【最終回を観て】

喜美子が、ひとり、穴窯に向かい続けることを示し、
物語が終わりました。

そこから何を感じるかが、この物語の核なのかなと思いましたが、

ふと、生まれた感慨は、
「そう、私たちは、そうやって生きていくのかも」

でも、「そうやって」が何を指すのか、
自分でもよくわからない・笑

独りきりで炎と向き合うということ?


【草間流柔道】

主人公は確かに、草間流柔道の教えから離れることはなかったと思いました。

人の心を動かすのは作品じゃない、人の心だよ
作った人の心が作品を通してこちらの心を動かす
ひどかったのは君だ
ああいう態度はいけないよ
一生懸命作った人に失礼だ
(第4回)

僕が君たちに教えたいのは勝った負けたではありません
本当のたくましさとは何か
本当の優しさとは何か
本当に強い人間とはどういう人間か
そして、
人を敬うことの大切さを学んでほしい
(第8回)

先生に礼、お互いに礼、ありがとうございました。
(第30回)


【八郎の描かれ方】

また、
八郎の描きかたにひっかかりがありました。

最終週、八郎は喜美子たちと琵琶湖にいっしょに行っていない。
彼は喜美子の家族ではない?

脚本の水橋文美江さんは、
「八郎は喜美子の才能に嫉妬している」と断言しています。

「ヒロインが戸田恵梨香さんに正式決定する前から、プロデューサーの内田ゆきさんと話していたのは、同業者の夫婦がうまくいかなくなる様を描くのは面白いのでは? ということです。結婚して夫婦揃って陶芸家になるけど、妻の才能が秀でていることで夫とのすれ違いが生まれる……。もともと、そういったところを描きましょう、描きたいねと言ってたんです。」(*)

この物語は、
「誰かの心を癒したり励ましたりする作品を作る」陶芸家にはなれなかった、
八郎のお話でもある、と思いました。

・ジョージ富士川のワークショップを外から眺めている
・「ハチさんに足りへんのは信じる力や」(第99回)
・「僕にとっては喜美子は女や、陶芸家やない」(第104回)
・息子に5年間「会いたい、いつか会いたい」と記した手紙を書き続けた(第108回)

物語の最後では、
喜美子にとっての八郎は、
元夫、陶芸の元先生、自分と同じ陶芸に携わっている人、であり、

家族や恋愛感情の対象ではなくなっていると思います。


(*)
「スカーレット」脚本家・水橋文美江が明かす、八郎「僕にとって喜美子は女や」発言の“本当の意味”


【喜美子が作った女系家族】

父親に縛られ、生き方を制約されて、育った。

穴窯で自然釉の作品を作るために、夫であり陶芸を教えてくれた八郎から離れることも厭わない。
(八郎が武志を手放さなかったら、息子さえそのままだったのではないか)

父親や夫の束縛を拒否し、自立すること、そのことで得るもの失うもの。


そうやってできてきた喜美子の家族・仲間たちが琵琶湖に出かけたように思いました。


ーーーーーーーーーーーーー

【各回の覚書・呟きの記録】



第8回
 https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019101450SA000/

喜美子(川島夕空)が「もっと言いたい」と吐き出した想い、
常治(北村一輝)、
マツ(富田靖子)、
草間さん(佐藤隆太)、
それぞれの反応、
珠玉のシーンだと思います。

喜美子がそれを口したから、草間流柔道を教わることができた。





第26回 恋、ちゅうのは、おもろいなあ
 https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019101468SA000/

第28回 おはぎの回
 https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019101470SA000/

第30回 先生に礼、お互いに礼、ありがとうございました!
 https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019101472SA000/

第48回 八郎の告白
 https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019101490SA000/







第102回 「さいなら」
 https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019101544SA000/





第108回 お父ちゃんは、5年間、書き続けた。

















20210729追記







お祝い大喜利ツイートが温かいものばかりだったのが印象的でした。






posted by inatt at 05:59| Comment(0) | ・感想など・TVドラマ・NHK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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