最後のライトは消さないで
■山口百恵
1978年に谷村新司が山口百恵に提供した曲。(アルバム「ドラマチック」19780901発売)
ラスト・ソング - 山口 百恵
レコーディング時に谷村新司が山口百恵に泣きながら歌うことを提案した、
という話をどこかで見聞きしたように思いますが、
確かなことかどうかわかりません。
本当に泣いてしまってはきちんと歌うことはできない。
谷村新司は、感情が過剰に溢れ演劇的に多少崩れた歌を録音したかったのかもしれません。
ただ、この曲は、
19781003放送のミュージック・フェアで、
山口百恵が涙を流しながら歌ったことで有名。
歌い手だけでなく、
演出も大変に力の入ったものでした。
歌い手の視線の先にあるスポットライト、
背後から撮り、歌手の顔を映さないカット、
歌い始めは両手でマイクを持っている。
前へ回りこんで、歌い手の表情を明らかにしていくカメラの動き、
ピンスポットの照明と歌手が纏う影、
まるで歌詞の主人公自身が歌っているかのように思える、
素晴らしい映像になっています。
■谷村新司
谷村新司の同曲セルフカバーの題名は、「ラスト・ソング -最後のライト-」
ラスト・ソング -最後のライト- - 谷村新司
私個人はこの、題名に「最後のライト」と足した、
セルフカバーのほうを先に知り、
主人公の心情、情景をドラマティックに表現しているところに感動しました。
谷村新司は、泣きながら歌っているわけではない・笑。
唄いながら、
泣いてないけど、
叫んでないけど、
泣いていること、叫んでいることの情感を
聴く人に伝えるのが、
歌が上手いということですよね。
唄や編曲の比較では、
山口百恵のオリジナルよりも、
作者のカバーのほうが、
(ちょっと濃くて暑苦しくもありますが、)
完成度が高いようにも思えるのですが、
だからなおのこと、
ミュージックフェアでの映像は、
映像的に歌の世界を表現できているところが素晴らしいと感じます。
■後藤真希
20061021のMUSICFAIR21で、後藤真希が同曲を唄いました。
照明とカメラワークが山口百恵のときと同じになっているのです。
目を潤ませ声を震わせ懸命に歌う後藤真希にも心が動かされました。
https://www.fujitv.co.jp/b_hp/mfair/backnumber/2006/1021.html
■ラストソングというドラマの1シーン
同じ演出で歌った二人の歌手の映像を観たことで、思うようになったことですが、
山口百恵のミュージックフェアの歌唱は、
歌番組で持ち歌を唄いましたということでなく、
主人公が歌手のドラマの1シーンを演じたのだ、と。
涙は、
歌い手の心が揺れて思わず知らず流れたのではなく、
俳優が演じる人物になりきるように流したものではないか。
涙を流しているが、
歌声はほぼ崩れることはなく、
レコードよりも上手く歌っていると思う。
( また、歌い手とテレビ局スタッフが
打ち合わせた上で作りこんでいるはず )
驚くべきは、このときの山口百恵は19歳だということです。
■編集が変わると台無し
20210123のMUSIC FAIRで、
1978年の山口百恵が歌う映像が放送されました。
元は6分余りですが、4分ほどに編集されていました。
特に、最後が切られているところが残念でした。
歌が終わり、後奏が盛り上がり、
初めて歌い手を正面から引きで映す。
( この後奏部分は元曲とも異なるアレンジで、
独自の演出となっていると思います )
それまで、
目の前のひとりに語り掛けるように歌っているように思えていたが、
実は、
広いステージにオーケストラをバックにひとり立っていた、
という余韻の深い演出が、
ばっさり切られて、
昔、山口百恵という歌手が、泣きながら歌ったことがあるんだよ、
という記録映像みたいに感じました。
この歌唱は、
山口百恵と三浦友和との交際など、
個人の物語とは切り離して、
純粋に、
たとえば、
シャンソン歌手の一世一代の名演のように
鑑賞するのがよいと思っています。
記録映像のように思えたのは、
音も調整が足りないように感じたところにもあるかもしれません。
歌そのものもオリジナルレコードよりレベルアップしているのに。
画面サイズの調整(余白の処理など)も工夫がなく、
フジテレビは、
( 山口百恵や後藤真希のために用意した演出は、
偶然や突発的なものではなく、
十二分に準備したものと思える素晴らしいものなのに )
( 例えばNHK「にほんごであそぼ」では
スタンダード時代のコンテンツに
画面にあった帯をつけてワイドで放送しています )
山口百恵について、
他のどこにもない、
私にとっては山口百恵のベストと思える、
映像を保有していながら、
大事に扱えていないようで、
残念に思いました。
音と映像を最新の技術で丁寧にリマスタリングして、
保存すれば、
立派なテレビ番組の仕事の記録として意味があると思うのですが。
(参考)
美空ひばりが「悲しい酒」で流す涙
http://yuzo-goroku.jugem.jp/?eid=3788
谷村新司さんは、2023年10月8日にお亡くなりになりました。お悔み申し上げます。
(20231017)