「スターとはね、不思議なものなんだ。
それは何というか、
奇妙な恍惚と自己顕示欲を満足させてくれる。
これをうまくさばけるのは、ごくわずかな人しかいないんだ。
かわいそうに、グレースにはそれができなかった。
(溜息)
彼女は確かに野心がありすぎた」
ーーー
「ねえ、どうしてそんなことをしたの、どうして」
「君のためさ、君のためだよ、君のね」
【一番好きなコロンボ作品】
私が一番好きなコロンボのエピソード。
脚本も演出も演技もとても好い。
Directed by HARVEY HART
Written by BILL DRISKILL
(
https://www.imdb.com/title/tt0072803/ )
・グレースが帰宅して、今夜の愉しさを身体で反芻したあと2階を見上げる表情にひやりとした気分になります。
・ウィリス博士も、コロンボと同じく、映画の中のグレースのファンだったのでしょう。その役名はローズメリー・ランドン。
・ネッドが図らずも犯人の心情を説明している。一番の理解者だから。
・謎ときは犯人の前では行われない。ホームシアターで小声で推理が語られる場面は陰翳があり印象的です。
・コロンボに抗議するグレースの顔にかかる映写機の光。
・最後のカット「奇妙な恍惚と自己顕示欲」
一方、
・ウィリス博士は、テレビでのグレースの発言を見たとき、もっと深刻な顔をするはずではないかと思う。ましてやその直後に「ふざけた本」など読む気にならないはず。あるいは絶対カムバックできないと確信している。
・コロンボが相手の業績や人気を褒めても、大方、口だけと思って見ていますが・笑
ウィラー/ダイヤモンドコンビの映画がコロンボ夫妻の思い出なのは本当のことと、
コロンボの表情から感じました。(だからといって、捜査に手心が入ることはない)
【最後の台詞】
1977年1月3日がNHK初放映だそうですが、(wiki)
その時、
最後の2つの台詞に衝撃を受けたことをよく覚えている。
「頑張ってみせる、二か月間(ふたつきかん)は」
「そう、それがいいね」
小池朝雄はもちろん、
小林昭二(こばやしあきじ)の吹き替えがかっこいい。
DVDで字幕でも観て気づきましたのは、
このふたつの台詞は、原語では、
"(It) might take a couple of months.
"Yes.Yes,it might.
なので、「頑張る」とは言っていないのです。
吹き替えでは、
グレースのために2か月もたせてみせる、
頑張るとネッドの意志を表に出した発言に対し、
コロンボは、
その行動は(彼にとっても、グレースにとっても)それがいいんだろうね、
と彼の意志を認めている、と私は受け取りました。
それ「が」いいね、と言っていて、
それ「も」いいね、なら、ニュアンスが変わります。
原語では、
コロンボの職業意識は、真犯人を挙げることしか興味はなく、
わざわざ自分から真犯人の逮捕を遅らせることなど考えていないと思います。
( 犯人に対して同情したり配慮したりする気は全然ないですよね、
どうやって警察に連れていくつもりだったのか )
だから、
真犯人でない人の主張に付き合うのは茶番でしかないけど、
ネッドが、
( すぐひっくり返される? それは違う、)2か月かかると自分は思う、と言ったことを、
コロンボが
(そうか、なるほど、あんたなら他の人とは違う、)
2か月かかるね、
(それはそれで仕方がない)
と冷静な状況判断として受け止めた、思いました。
( 少し私の想い入れ眼鏡がかかってますけど・笑
ピーターフォークの仕草や表情は同じでも、台詞や喋りの間の違いで、
ニュアンスに差異が出ることが大変興味深い。)
( 吹き替えの台詞は、額田やえ子台本とも異なっているというブログを読みました。
https://blog.goo.ne.jp/zon-be/e/51a0d0196da1c6fdb01d8b059cf07cfd )
オリジナルを勝手に変えすぎることなく、
観ている人に好いシーンを届ける、
吹き替え版の素晴らしい仕事。
作品が発している、
複合的な主張の重心が
言葉、声質、語りの間のちょっとした違いで、
微妙に変わっていくんだなということを
コロンボの吹き替えでしばしば感じます。
【執事レイモンド】
端役の警官も含めて登場人物が皆、印象的な本作ですが、
特に執事夫妻、レイモンドとアーマのおふたりが、
本作の雰囲気を好いものにしています。
コロンボがコーヒーをこぼさないか気にする、
コロンボに灰皿持ってついてまわる、
など、
銃を撃っても、執事も気づかないような広いお屋敷をいつも隅々まで綺麗にしているんでしょうね。
演技も面白く、
帰るのかと思ったらもう一度2階に上がるコロンボを見つめて、
苦虫を噛み潰しています・笑。
心から誠実に雇い主に仕えているような彼らの描写が、
ウィリス夫妻の以前の穏やかな生活を想像させます。
ご主人に精一杯仕えたふたりが、
もう少ししたら失業するとは同情を禁じ得ません。
【あなたのあの自動車事故】
グレース・ウィラー(ジャネット・リー)とネッド・ダイヤモンド(ジョン・ペイン)が、
どんなスターで、どんなコンビで、どのような人生を送ってきたか、
とても少ない情報しかありませんが、
「あなたのあの自動車事故(*1)以来、私は駄目になった。人気絶頂でこれからという時に」
「あなた抜きでは誰も雇ってくれなかった(*2)」
とネッドに語るグレース、
何かしら戸惑いも見せながら、
「(あの頃、結婚したいと思っていたし)今も同じ気持ちだ」
と断言するも、
と複雑に表情が揺れるネッド。
短いシーンなのにいろいろに想像を掻き立てられます。
私は、
ネッドにとって、グレースは、
人生で最も愛した大事な人であることには間違いないが、
昔と同じような熱さを変わらず持ち続けているかというと
今は、微妙に違う想いが混じっている、
というような複雑な感情を持っているように
思いました。
ネッドは、
グレースのカムバックの意義や成功の見込みについて、
グレースとまったく同じ感触は持っていないことを
しばしば表情で見せています。
売れっ子だった頃の関係性や、
ネッドの飲酒運転?による交通事故の経緯など、
ふたりには深い紆余曲折がありそうです。
(*1) that stupid driving accident and
your foolish drinking (*2) No one would hire Wheeler without Diamond.
( それ以外にも、
グレースとウィリス博士の馴れ初めや、
グレースが再び野心を持つに至った流れも、
それぞれ興味深い物語があるのかも。 )
【グレースの「寝落ち」】
Twitterでの感想を見ていて、
推理の論理に「寝落ち」などの可能性という穴がある、
という指摘に、なるほど、と思いました。
でも、
脚本がそれに触れていなくても、
彼女はこの映画ではそんなことはしないのでは、
と感じさせるお話になっているとは思いました。
犯人の殺意は本心からのもの、という指摘も
どきっとしました。
そのような酷薄な自分勝手に思える人が見せた幕切れの微笑み。
【射撃訓練】
射撃訓練のエピソードは、コミックリリーフであるだけなく、
「身代わり」の「共感」のためにあるようにも思えます。
本作の脚本、演出には細かい仕掛けを感じます。
コロンボの飼い犬も必要があって登場させてますよね。
【Walking My Baby Back Home】
映画ウォーキングマイベイビーは、ジャネットリンが実際に出演した、
1953年の映画 Walking My Baby Back Home だそうです。
https://www.imdb.com/title/tt0046531/ https://www.youtube.com/results?search_query=walking+my+baby+back+home+【ジョンペイン】
ネッドを演じたJohn Payneの他の作品を私は勉強不足で観たことがないのですが、
IMDBを見ると、本作は最後の出演作なのでしょうか。
私にとっては、本作一作だけで、忘れられない俳優さんになりました。
https://www.imdb.com/name/nm0668361/【SPEAK LOW】
グレースとネッドがパーティで披露したのは、「SPEAK LOW」という曲だそうです。
【ザ・トゥナイト・ショー】
【ザイアス博士】
【フジテレビドラマ「黒井戸殺し」】
20180414に放送された、フジテレビの「
黒井戸殺し」を観て、
しばらく忘れていた本作のことを思い出し、
DVDを取り寄せて観て、
このドラマの魅力を再確認することができました。
(初回記事作成 20180520)
刑事コロンボ Columbo 各話の感想
http://inatt.tokyo/article/475671325.html刑事コロンボ傑作選 5時30分の目撃者/忘れられたスター [DVD]
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